Googleは2023年8月30日、”Google Chrome”の新機能として生成AI(Generative AI)による検索体験を提供する”Search Generative Experience”(以下SGE)の日本語版の試験運用を開始しました。SGEを導入すると、Googleの検索結果画面の筆頭にSGEの検索結果が表示され、Webサイトへのアクセスが減少することが考えられます。そのため「SEOは無駄になる」という声もありますが、実際にはどうなのでしょうか。SEO対策は全く無駄になる、不要なものになってしまうのでしょうか。
SGEとは
SGEは、検索語に対し大規模言語モデルの情報を生成(Generative) AIの技術を活用して分析し検索、その結果をテキストで回答します。
- 大規模言語モデルとは
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大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)とは、大量のテキストデータから学習した言語モデルのことです。テキスト分類や感情分析、情報抽出、文章要約、テキスト生成、翻訳といったさまざまな自然言語処理タスクに活用できます。
検索結果の一番上にSGEによる回答がテキスト表示され、Webサイトが従来のようにリストで表示されます。
SGEの特徴
SGEはLLM(大規模言語モデル)の情報を分析しているので、以下のような特徴があります。
- ユーザーの質問をより正確に理解してから回答し、追加で質問できる候補を提示します。
- 検索結果をより正確にし、より包括的な回答を提供することができます。
- 人間がWebサイトを閲覧し比較し統合する、という複雑で時間のかかる作業をより効率化できるよう補助してくれます。
- 質問から質問へと文脈が引き継がれるため、より自然に探索を続けることができます。
- 該当する内容のWebサイトへのリンクも表示します。
SGEが得意とする検索のケース
SGEはユーザーの検索意図をより深く理解し、より関連性の高い検索結果を生成することを目的とした技術です。SGEが得意とする検索のケースは以下のとおりです。
- 正解が一つではないものを検索したい時
- よりピンポイントに情報を得たいとき
- 検索して表示された記事を読んで、自分の知りたい情報を探す手間が惜しいとき
- Google検索で、検索窓に入力すべき適切なキーワードがよくわからないとき
SGEの課題 – ハルシネーション
ユーザーにとっては最強の検索エンジンのように思えるSGEです。しかしGoogleは検索から得られる情報の品質を追求するという立場から、SGEの運用を開始するにあたり「責任ある慎重なアプローチ」を行いました。これはどういうことでしょうか。
責任ある慎重なアプローチとは
生成AIには、誤った情報を正しいものであるかのように表示する“ハルシネーション”を解決する、という課題があります。明らかに誤った情報に思える回答でも、それが自然なテキストで提示されるならハルシネーションであっても人々は信頼してしまう危険もあります。そのためSGE運用開始に対し「責任ある慎重なアプローチ」を行いました。
GoogleはSGEの運用が開始されてからも、ハルシネーションを防ぎ高い品質基準を維持できるよう、引き続き責任感を持ち慎重にSGEをトレーニングする必要がありました。そのためGoogleはまず「Search Labs」と呼ばれる実験プログラムを立ち上げ、検索したユーザーがSGEを利用する際に結果をフィードバックしてトレーニングするシステムとし、ハルシネーション抑止に努めています。
- ハルシネーションとは
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ハルシネーションとは英語でHallucination、幻覚を意味する単語ですが、これは人工知能(AI)が事実に基づかない情報を生成する現象のことを指しています。AIがまるで幻覚(=ハルシネーション)を見ているかのように、事実とは異なる回答をすることです。
SGEとBardは別物
Google SGEが生成AIである、と聞いて「ではGoogle Bardは何だったのか、SGEはBardと何が違うのか」と思われる人もいらっしゃるでしょう。Bardについてご説明します。
BardとSGEの共通点相違点
BardとSGEは、両方ともLLMを利用したGoogleのAIによる回答という点では共通しています。しかし大きく異なる点はSGEが検索結果に組み込まれた検索エンジンの一部の機能であるのに対して、Bardは検索エンジンからは独立したチャットボットである、ということです。 Bard もLLMを利用していますが、SGEとは別のモデルのLLMを利用しています。Bardはチャットボットですからチャットで質問をなげかけると回答が表示されます。
SGE | Bard | |
できること | 情報を検索できる | チャットができる |
提供形態 | 検索エンジン 検索結果に組み込まれた機能 | チャットボット 検索エンジンからは独立している |
利用している大規模言語モデルLLM | PaLM 2とMUMの組み合わせ | PaLM 2 |
Bardは鳥ではなく詩人
質問に対して自然言語で回答を返してくれるところから「詩人(Bard)」という言葉が由来になったようです。
SGEとSEOの関係
日本でもSGEの運用が開始されたことで、SEOが終わったのではないかという声が上がっています。これはいったいどういうことなのでしょうか。SGEとSEOにはどのような関係があるのでしょうか。
SGEとSEOの関係性について考える前に、SEOについてご説明します。
SEOとは
SEOは”Search Engine Optimization”の略で、検索エンジン最適化の意味です。SEOとは、SGEのようなGoogleなどの検索エンジンベンダーが名付けた「名称」ではなく、検索エンジンで上位に表示されるようにWebサイトやコンテンツを調整する手法の略称です。
SEOが目指すのは「Webサイトで集客」する、つまりWebサイトへの訪問者を増やすことです。そのためにWebサイトがクリックされやすいように検索結果画面の上位に表示させる必要があります。
SGEにより何が変わるか
SGEによりSEOに関する何が変わってしまうのでしょうか。
情報へのアプローチが簡略化される
SGEにより情報へのアプローチが簡略化されます。これまでユーザーは検索窓に知りたいワードを入力し、表示された検索結果をひとつひとつクリックし閲覧して、求めている情報を探す必要がありました。しかしSGEではこの手順は不要となります。生成AIが必要な情報を集め分析し判断してテキスト化し、検索結果のコンテンツリストの上部に画像などと一緒に表示してくれるようになるからです。
例えばあるお店のメニューを知りたい場合、、今までなら「店名 メニュー」で検索しコンテンツのリストからお店のサイトを開いてメニューを探しました。しかしSGEであれば「〇〇(店名)のメニューを教えて」とすれば該当するメニュー表の画像が表示され、場合によってはその場で商品を選ぶことができます。また「長崎旅行のプラン」と入れれば、観光スポットが画像と一緒に提示され「出島での滞在時間は?」といったようなプラン作成に役立つ質問も表示され旅のプランが立てやすくなります。
商品の比較検討・購入が便利になる
情報へのアプローチがシンプルになることにより、商品の比較検討や購入も便利になります。ユーザーが購入前に十分検討でき商品をより深く理解した上で購入の判断を下すことができるようになり、ユーザーの成功体験へとつながります。
SGEがSEOに与える影響
従来の検索では、ユーザーが検索エンジンに知りたいワードを入れ、表示された検索結果の中から上位のいくつかのコンテンツを選び閲覧して、欲しい情報をユーザー自身が探していました。しかしSGEによってユーザーは、コンテンツのリストの上部に表示される、直接的で端的なSGEからの回答を得ることが可能になります。SGEの回答に満足したユーザーはそれ以上Webサイトを訪問しようとしないので、検索結果画面からWebサイトへの流入が従来よりも大幅に減ってしまいます。
この件に関してGoogle広報は「SGEにおける回答内でも、情報源のWebサイトが見られるようになっており、従来のトラフィックを送れるようなしくみに注力して作っている」と言っています。
とは言えSGEの運用開始により検索結果での上位表示を獲得するための競争が激化するのは明白で、企業のSEO戦略の再考は必須です。またWebサイトの訪問数ではなく他の新しい指標を検索結果のランク付けに使用し始める可能性があり、そうなると従来以上に画像や動画を含むユーザーのニーズを満たすようなコンテンツが求められることが予想されます。
SGE使用時の注意
ハルシネーション防止の観点からSGEの精度を上げるため、Googleは検索内容をフィードバックに利用しています。これは今後の開発のためにとはいえ、自分の検索内容がGoogleに保存されるということです。
つまり検索キーワードはGoogleに監視されていることになります。従って個人情報や機密情報などを使っての検索は厳禁です。
SGEでSEOは不要になるのか
SGEが導入されたことで、SEOが一切不要になるのか―この質問の答えは”No”です。SGEの導入により、SEOの必要性がこれまでより低下する可能性はありますが、完全に不要になる可能性は低いと考えられます。それはなぜでしょうか。
SGEは完全ではない
その理由のひとつは、SGEは完全ではない、ということです。SGEがユーザーのニーズをかなりよく理解するとは言えそれは”完全”ではありません。時にはハルシネーションを起こして誤った回答を表示してしまう可能性があるため、ユーザーはSGEの回答を通常の検索エンジンを利用してさらに検証する必要が発生しています。
SGEがすべての検索クエリに適しているわけではない
別の理由は、SGEがすべての検索クエリに適しているわけではない、ということです。例えば商品の購入やサービスの問い合わせが目的の場合、ユーザーはSGEではなく従来の検索エンジンの結果に頼る必要があります。
複数の選択肢を求める場合は通常の検索が必要
ユーザーが検索する際には1つの答えを求める場合と、複数の選択肢を求める場合があります。特に後者の場合、ユーザーはSGEではなく従来の検索エンジンの結果を必要とします。
SGEではSEOは終わらない – SGEの強み弱みから考える
では今後のWebマーケティングの動向をSGEの長所短所から考察します。
1.SGEの得意分野は用語解説記事
SGEの得意分野は用語解説記事です。生成AIは膨大な情報をまとめて提供するということを得意とします。記事をひとつひとつ閲覧しつつ調べていくよりも、もっと広範囲に網羅的に回答を提示してくれます。もしユーザーがSGEの最初の回答に満足しなかったとしても、SGEが提示する補助的な質問でさらに調査を進めて、満足のいく回答を得ることが考えられます。そうなると用語解説のようなコンテンツをいくら量産しても直接利用されることはなく、クリックされる機会が激減します。
2.SGEは関連コンテンツや参照元を表示する
SGEは生成AIで直接的な回答をテキストで提示しますが、関連コンテンツや参照元も表示します。それで今後はSGEに取り上げられるコンテンツを目指すというのがSEOでトレンドとなる可能性があります。
3.SGEの弱点は実体験
SGEは膨大な情報から回答をコンパクトにまとめることは得意です。しかし情報をまとめるだけで実体験は伴っていませんので、ユーザーが実体験をベースとしたような情報を知りたいという検索意図は理解できず、適正な回答はできません。
例えばECで商品を購入したくなり生成AIで検索した場合、SGEが提供できるのは公式サイトの商品紹介の情報だけです。しかしユーザーが実際に求めているのは公式サイトの良いことだけを並べた売り込み文句ではなく、投稿者の声が聞こえるような実際に使った・購入した・比較してみたといった体験に基づく情報です。EEATを満たすようなコンテンツということですね。
したがって生成AIがもっと広く普及するにつれて、体験ベースのコンテンツへの需要はさらに増加すると予想されます。これに即応できるかどうか―これが今後のSEO、言い換えると新しいSEO、SEGO(検索生成エクスペリエンス最適化)となると推察されます。
まとめ
SGE運用実験開始により、検索方法の選択肢がひとつ増え、ユーザーとしては便利になりましたが、かたやWebマーケターからは今までコツコツと積み上げてきたSEOがすべて不要になるのでは、と危惧する声も多数上がりました。これからは状況の変化を慎重に見守りつつ、今後のWebマーケティングへの影響を見極めるために引き続き最新情報に注意を払う必要があります。
以下のサイトを参考にさせていただきました。ありがとうございました。
https://japan.googleblog.com/2023/05/bard.html
https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2303/13/news013.html
https://is.gd/vE1fbV
https://www.yoshidumi.co.jp/collaboration-lab/google-bard
https://www.marke-media.net/whitepaper/sge/
https://japan.googleblog.com/2023/08/search-sge.html
https://www.centered.co.jp/blog/sge/
https://is.gd/qyCIwC
https://is.gd/LheHOr
https://webtan.impress.co.jp/e/2023/09/08/45570
https://static.googleusercontent.com/media/guidelines.raterhub.com/ja//searchqualityevaluatorguidelines.pdf
https://www.bring-flower.com/blog/seo-sge/#index-03
https://is.gd/AWFgxk
https://xrcloud.jp/blog/articles/business/11460/
https://webtan.impress.co.jp/e/2023/09/08/45570
https://note.com/harune2023/n/n2dd43d50b82e
https://is.gd/fg0L5m
https://onl.sc/SPWsn6e